前回は世界的に見る日本の財政状況・国民負担率について紹介しましたが、今回は、国民負担率が他国と比べて高く、高負担・高福祉を実践する北欧諸国を例に挙げながら、「高い国民負担率がもたらすこと」を解説し、今後の会計税務業務についての動向を考察していきます。
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高い国民負担率がもたらすこと
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北欧諸国は、「高負担・高福祉」と言われています。北欧の国々の国民負担率(ここでは小数点以下を四捨五入)を見てみると、最も高い負担率の国はデンマークの68%で、次いでフィンランドが62%、続いてスウェーデンが56%、ノルウェーが54%となっています。これらの国々は国民負担が大きい分、教育、医療、雇用、年金など、生活の多くの面が国によって保障されていることが有名です。
「高福祉」に向かっている日本は、2015年の試算によると、現在の国民負担率を7.4%増やして50.8%にすれば、新規の財政債務を発生させないで済むとしています。しかし、負担率を単純に上げて対応することはそう簡単ではありません。負担を増やせば多くの批判が出て、政治が機能しなくなる可能性もあります。ではなぜ、北欧諸国の国民はこの高負担を拒否することなく受け入れることができているのでしょうか。考えられる理由を3つ挙げてみましょう。
●北欧諸国が高負担を受入れる3つの理由
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地方分権が進んでいる
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納めた税金が地方の予算として使われるため、支払と受益の関係が国民に理解されやすく、恩恵が身近に感じられる。 |
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社会保障がすべての世代に行き渡っている
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高齢者だけでなく、若い世代でも社会保障の恩恵を受けられる。 |
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国民が自国の政治・政府を信頼している
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北欧諸国では、長い歳月をかけて国民と政府が信頼関係を醸成してきた歴史があります。スウェーデンの投票率は80%を超えるそうで、その信頼度の高さが伝わってきます。
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他にも様々な理由はありますが、このような主な背景によって高い国民負担率でも国民が納得をし、確実な保障のもとに暮らしているのです。ただし、北欧諸国が高負担にもかかわらず国家として存続しているのには、国際競争において、生産性向上につとめ切磋琢磨してきた企業の下支えと、国民の誰もが働くことが当然といった社会であることが前提になります。日本も同様の高負担を受け入れるには、これまで労働人口としてカウントして来なかった高齢者や女性も含め、労働力として総動員できる制度が必須になってくることでしょう。
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日本の税・会計に対する今後の動き
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国を問わず国民は皆、「低負担・高福祉」が理想であることは間違いありません。しかし、現実にこれが成り立っている国は、特殊な産油国くらいしかありません。お金(国民負担)を出さなければ、福祉や保障が受益できないのが世の中のルールです。それは「低負担・高福祉」には矛盾があるからです。北欧諸国のように「高負担・高福祉」を目指していくのか、アメリカ・香港・シンガポール、その他の途上国のように個人にゆだねる「低負担・低福祉」を目指していくのか、日本は今、その岐路に立たされています。早急の課題であるにも関わらず、この問題に対する明確な答えは出てきていません。私たち国民は、一人ひとりが主権者として政府に依存するだけでなく、将来に向けて国がどうあるべきかをしっかり考えていく必要もあります。
一方、今後の税制・会計制度の動きはどうなっていくのでしょうか。これから日本の国民負担率は増加の傾向に向かっていくと思われます。国民負担率が高くなれば、税金の負担をどう逃れようかという力が働くものです。高負担においては、国家はいかに脱税が起きにくいシステムを構築できるかが課題となることでしょう。マイナンバー制度に基づく、一人ひとりの納税の監視や、所得の海外移転への監視もより一層厳しくなることも考えられます。
また、負担を分散させるために、より多くの労働力が求められることから、配偶者控除などの「主婦」への優遇措置の縮小、高齢者の就労促進に向けた減税などが考えられると思います。そして、企業のさらなる競争力が求められます。業績が芳しくなく生産性の低い企業は、より生産性の高い事業へシフトチェンジしていくことが急務となっていくはずです。