心から謝ること
子どもは、親や先生に叱られると、時に涙を流しながら素直に「ごめんなさい」と謝ります。では大人になるとひねくれて、これができなくなるかと言うと決してそうではなく、プライベートで家族や友人に何か誤解を与えたり、悪いことをしてしまった時は、素直に謝罪ができるものです。
ところが、ビジネスシーンとなると、なかなかそうもいきません。その理由は、ビジネスシーンには様々なしがらみや企てなどが存在するからです。また、「会社」という組織の中にいることで、「自分が必死になって謝らなくても何とかなるだろう」といった甘えも、心のどこかにあるのかもしれません。そのため、「心から謝る」ということができない場合が、ビジネスシーンで時折起きてしまうのです。
心から謝らないと「謝っているつもり」になります。すると、明確なお詫びの言葉が出てこないということも起こり得ます。誠意ある対応の気持ちがあっても、肝心の「申し訳ございません」「お詫び申し上げます」といった謝罪の言葉がないと、相手の怒りは収まりません。
謝罪をするのは会社としてですが、自分自身の問題であることも認識する必要があります。
ちなみに、「ごめんなさい」の敬語が「申し訳ございません」で、さらにかしこまったものが「お詫び申し上げます」になります。謝るべき“度合い”を見計らって、然るべき謝罪の言葉を用いるようにしましょう。
大切な謝罪の仕方
「謝るべき度合い」次第では、メールや電話で謝罪を済ませてもよい場合があります。ただ、やはり謝罪の基本は対面です。誰しも怒っている相手のところへは行きづらい状況ですが、
相手は怒りの対象となる出来事にだけ腹を立てているわけではありません。その事後処理、つまり謝罪の仕方にも相応の要求をしているのです。そこに、メールや電話だけで
の謝罪では、怒りが増幅してしまう可能性があります。商談の破談や取引解消といった最悪の事態をも招きかねません。ところが、面と向かって謝られると、人の怒りの感情はそう長続きすることはなく、落ち着いていくものです。「謝罪は対面で」これは基本の心得です。
また、謝罪するタイミングやスピードも重要な意味を持ちます。謝罪が遅れると、「軽んじられている」と相手の怒りは増してしまうものです。怒られたくない気持ちはよくわかりますが、重い足取りをどうにか進めて、少しでも早く謝罪に出向くようにしましょう。
相手の言葉に耳を傾ける
謝罪を開始し、お詫びの言葉を告げたら、あとは相手の言い分に耳を傾けます。中には相手の誤解に反論したいことや、言葉をはさみたくなることもあるでしょう。しかし、謝罪時の反論や言い訳は厳禁です。とにかく早期に怒りの感情や言い分をすべて吐きだしてもらうことが重要で、その後こちらのお詫びや今後の解決策などを落ち着いた状況の中で話し合うことが肝心です。
また、ビジネスシーンの謝罪時には、「うっかり非を認めてしまうと言質を取られ、後々こちらに有利に事を進められないかも」などと思ってしまうかもしれません。しかし、そのような心の内は相手にも伝わってしまいます。
相手の言葉に耳を傾け非はきちんと認め、素直に謝ることが地道ながら解決に向けた近道です。

私が飛行機の乗務員をしていた時、機内でお客様の苦情が徐々にヒートアップし、騒然となったことがありました。直接対応していないものの、距離も近く、やり取りがはっきり聞き取れました。「……その謝り方はマニュアルだろう。前も同じような謝り方をされたことがある」との言葉にハッとしました。不幸にも起きてしまったことへの対応は、こなれた様子でうまく謝罪することではなく、心のこもった個別対応であることを忘れてはいけないのです。