発酵学、醸造学、食品文化など、食に関わる幅広い知識を持つ農学博士の小泉武夫氏。本書は小泉氏が体験した友人の猟師が住む山奥での生活をまとめたエッセイです。
今から15年前、小泉氏は渋谷の繁華街の裏通りにある小さな居酒屋で雇われ店主として働いていた「義(よ)っしゃん」こと猪狩義政さんと出会います。元々、八溝山地で猟師をしていた彼の話は小泉氏の好奇心を大いにくすぐり、足しげく通っていましたが、その1年後、義っしゃんが店を辞めてしまいます。そして義っしゃんの存在を忘れかけていたころ、突如、八溝山地に戻った彼から独活(うど)が送られてきます。懐かしく、独活の味に感動した小泉氏は、無性に彼に会いたくなり、リュックサックを担いで八溝山地を目指します。
「ターザン」と呼ばれ、地元ではなかなか知られた義っしゃんに無事会えた小泉氏は、電気もガスも水道も通っていない彼の生活に興味津々かつ感銘を受けます。冷蔵庫がなくても長持ちする見事な猪肉の燻製や野兎の灰燻(あくいぶ)のテクニック、蝉を串焼きにしたり、地蜂(じばち)の蛹(さなぎ)を炊き込みご飯にしたり、臭木椿象虫(くさぎかめむし)の蛹を炒めるなど、栄養価の高い昆虫を見事に料理する知恵まで、義っしゃんの生活は驚くことばかり。都会では考えられない食生活と、山男のワイルドな日常を体験できる一冊です。
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