今号のBook

山奥に暮らす猟師が教えてくれる、識者も驚くワイルドな生活と知恵
猟師の肉は腐らない
猟師の肉は腐らない
小泉武夫 著
新潮社
本体1,400円+税
発酵学、醸造学、食品文化など、食に関わる幅広い知識を持つ農学博士の小泉武夫氏。本書は小泉氏が体験した友人の猟師が住む山奥での生活をまとめたエッセイです。
今から15年前、小泉氏は渋谷の繁華街の裏通りにある小さな居酒屋で雇われ店主として働いていた「義(よ)っしゃん」こと猪狩義政さんと出会います。元々、八溝山地で猟師をしていた彼の話は小泉氏の好奇心を大いにくすぐり、足しげく通っていましたが、その1年後、義っしゃんが店を辞めてしまいます。そして義っしゃんの存在を忘れかけていたころ、突如、八溝山地に戻った彼から独活(うど)が送られてきます。懐かしく、独活の味に感動した小泉氏は、無性に彼に会いたくなり、リュックサックを担いで八溝山地を目指します。
「ターザン」と呼ばれ、地元ではなかなか知られた義っしゃんに無事会えた小泉氏は、電気もガスも水道も通っていない彼の生活に興味津々かつ感銘を受けます。冷蔵庫がなくても長持ちする見事な猪肉の燻製や野兎の灰燻(あくいぶ)のテクニック、蝉を串焼きにしたり、地蜂(じばち)の蛹(さなぎ)を炊き込みご飯にしたり、臭木椿象虫(くさぎかめむし)の蛹を炒めるなど、栄養価の高い昆虫を見事に料理する知恵まで、義っしゃんの生活は驚くことばかり。都会では考えられない食生活と、山男のワイルドな日常を体験できる一冊です。
“北大復活”を目指して大学時代を七帝柔道に捧げた作者の自伝小説
七帝(ななてい)柔道記
七帝柔道記
増田俊也 著
角川書店
本体1,800円+税
現在、国内外で行われる柔道の試合は講道館柔道がほとんどであり、投技(なげわざ)で投げた後にしか寝技(ねわざ)への移行を認めない、いわゆる「引き込み禁止」のルールを採用しています。一方、七帝ルールでは、組み合ってすぐの寝技が許されており、「待て」や「有効・効果」のポイントもなく、勝負は一本勝ちのみ。場内場外の仕切りもありません。これは戦前の高専柔道を受け継ぐもので、今では旧七帝大(北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)だけが、年に一度、「七帝戦」を開いて戦っています。七帝戦は、15人の抜き勝負(引き分けか、負けない限り1人の選手が戦い続ける試合)のチーム総力戦です。
1986年春、七帝柔道に憧れて名古屋から北海道大学(北大)に二浪してやってきた増田俊也は、覚悟を決めて柔道部に入部します。「練習量がすべてを決定する柔道」を実践する七帝柔道。その寝技の練習は想像以上に厳しく、脱落していく部員も少なくありません。しかも七帝戦で最下位に沈む北大の再起に懸ける想いは強く、先輩たちの指導もヒートアップしていきます。
他の学生がキャンパスライフを謳歌する姿を横目に、ひたすら寝技の練習に励む部員たち。七帝柔道に学生時代を捧げ、信じる道を突き進む姿の清々しさが伝わってくる青春群像小説です。
●奉行EXPRESS 2015年春号より [ →目次へ戻る ]