29歳無職の葉太。今、彼が立っているのは、ニューヨークのマンハッタン。小説家だった父の遺産を使ってやって来た初の海外旅行で、しかも初めての一人旅。宿泊先は、「ニューヨークに泊まるなら、暮らすことが体感できるアパートメントホテルがいい」と言った父に倣うことに。カフェでアメリカンブレックファストを注文し、コーヒーを飲み、「らしい」食事をする葉太は、五番街を歩く自分に酔いしれながら、それでいて「決してはしゃぐな」と自分に言い聞かせます。はしゃぐとろくなことはない――。それが、彼が経験から学んだことでした。
葉太は、どこか世間を見下した、素直になれない冷めた青年で、常に人からどう見られるかを気にする自意識過剰なところがあります。そんな彼が、唯一心を開いたのが小説でした。セントラルパークでお気に入りの作家の新刊を読むこと。それが彼にとっての今回の旅の目的でした。しかし、シープ・メドウに腰を下ろし、いよいよ本をめくろうとした瞬間、彼のバッグが盗まれます。「カッコ悪い」と、叫ぶこともできず、滞在初日から一文無しまった葉太は、虚栄心と羞恥心で助けを求めることができません。マンハッタンを彷徨う羽目になった葉太が、自分とどう向き合うのか、心をどう変えていくのかが読みどころです。
|