健康でいこう!
オフィスの救急救命に大切なのはコミュニケーション。協力し合うことが命をつなぐ第一歩
人命に関わる予期せぬ事態は、いつどこでどのようにして起こるか誰にも分かりません。通勤途中、商談中、会議中などビジネスのあらゆる場面で緊急事態に出くわす可能性があります。他人や仲間、そして自分自身の命を救う、ビジネスパーソンが知っておきたい救急救命について紹介します。 救急救命士 公益財団法人東京救急協会指導課長
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清武 直志(Kiyotake Naoyuki)さん
1964年東京生まれ。東京都所在の消防署を中心に三鷹消防署、新宿消防署、品川消防署などを経て、2000年には府中消防署の救急隊長に就任。その後、東京消防庁救急指導課などに在籍し、08年から現職。現在は、企業や一般向けに救急講習を開催するなど救急救命の普及に努めている。
救急救命には周囲の協力が不可欠
肝心なのは一人で責任を負わないこと
イメージ1  東京都内の統計を見ると、08年度の救急救命講習受講者は約23万人で、前年度の約19万人を大きく上回りました。これは全国的にも当てはまり、救急救命の関心の高まりがうかがえます。また、企業研修で救急救命を行う場合も増加傾向にあります。AED(自動体外式除細動器)の普及も大きな要因ですが、「自分たちの命は自分たちで守る」「仲間の命を助けたい」という思いも動機付けになっているようです。
 通報を受けてから救急車が到着するまで全国平均で約6〜7分前後かかります。心臓停止は約3分間、呼吸停止は約10分間、それぞれ傷病者を放置すると死亡率は50%に上昇し、応急手当が遅れれば遅れるほど高率になります。救急救命の大切さは誰しもが認識していることだと思います。しかし多くの人は、「失敗したらどうしよう」「間違って悪化させたらどうしよう」と心配になり、なかなか積極的に行動できないでいるのではないでしょうか。
 応急処置を難しく考える必要はありません。AEDの使用、心臓マッサージや人工呼吸は、専門的知識は要らず、簡単な手順を覚えれば誰にでもできます。たとえ処置を行う人に知識がなかったり、忘れていたりしても周囲の人たちが「次はこうする」と声をかけ合えば大丈夫。緊急事態に出くわす人が皆、救命方法を知っているわけではありません。しかし、数人でも知識のある人がいればその人が指示をすればいいのです。大切なのは協力すること。これは仕事にも当てはまると思います。重要な案件を一人に押し付けてしまっては、その人は不安でパニックになるかもしれません。でも、知識を持った人がアドバイスすればスムーズに解決するはずです。オフィスでの緊急事態に備えて日頃からコミュニケーションをとることも立派な救急救命の一歩といえます。
ビジネスパーソンが気をつけたい気道閉塞
新年会や宴会時には要注意
イメージ2  人命に関わる緊急事態はさまざまで、心臓停止、呼吸停止、多量出血など事例はさまざまです。中でもビジネスパーソンもよく利用する駅では救急救命が必要な場面が多く、最近では、ホームと車両の間に両足を挟まれた男性を助けたり、心臓停止状態の女性を救護したケースがありました。いずれも協力した人たちに必ずしも応急処置の知識があったわけではありません。大切なのは「勇気を持って救急活動をすること」です。
 一方、この時期にビジネスパーソンが気をつけておきたいことがあります。それは食べものがのどに詰まったり、嘔吐によって気道が塞がって呼吸が停止してしまう事態です。冬は誤ってお餅を丸ごと飲み込んでしまう人が多いのですが、健康な方であれば異物をとってあげるだけで呼吸が戻ります。そのためにも気道の異物を取り除く応急処置を知っておくとよいでしょう。ちなみにのどに詰まりやすい食材はお餅だけではありません。実は、白米、パン、麺類など私たちが日常的に口にしているものの方がのどに詰っている件数が多いので注意が必要です。また、飲みすぎによる嘔吐も危険です。酔っ払って寝ている間に嘔吐し気道が塞がって呼吸ができず、知らない間に死に至るケースも少なくありません。新年会などが多いこの季節、本人はもちろん周囲の気遣いも求められます。酔って眠っている人がいれば、口元を床面にして横向きに寝かせてあげてください。
 このほかにも心肺蘇生法や止血法など知っておきたい応急処置はたくさんあります。救急救命の講習会は各消防署で行われ、東京救急協会でも定期的に講習を開いています(03-5276-0995)。企業の職場内研修としても開催しているので、コミュニケーションを図る一環として、救命講座を役立ててみてはいかがでしょうか。
●奉行EXPRESS 2010年冬号より [→目次へ戻る]