国際的な会計基準に歩調を合わせるべく、日本の会計基準においても「国際的競争力を高めるための企業情報の適正な開示」を目的の中心に、様々な法改正が行われてきました。今回は「リース会計基準」に焦点をあて、改正の背景や適用後の注意点等について解説いたします。
中小企業においては、従来の処理が認められますが、取引先との信頼性やコンプライアンス等にもかかわってくるため、財務諸表への影響や資産管理における対応を事前に考える必要があります。
減損会計とは固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件下で帳簿価額を減額する会計処理のことを言い、日本においても平成17年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。
減損会計導入には、国際的な会計基準に準じた適切な企業情報の開示を目的とするところがあります。これまでも国際的な会計基準への対応は、キャッシュフロー計算書の開示義務化、税効果会計、金融商品会計、退職給付会計等の導入などにおいてもされており、減損会計の制度化もそのひとつと言えます。
米国会計基準やIAS(国際会計基準)などは、投資家等の保護を目的とし、これらの対応をしてきましたが、日本においてはその対応が遅れており、日本企業が公表する企業情報については海外投資家等からの信頼性が失われるのではないか、という危機感がありました。特に減損会計においては、日本ではバブル期に多くの企業が不動産投資や、新規事業を行うための多額投資を行い資産を増大させましたが、実際の価値が帳簿価額を大幅に下回る状況となっていました。
今回のリース会計基準の改正は、こうした「企業情報の適正な開示」という流れの中で一定条件のリース取引についても帳簿上資産として計上することとし、より適正な情報開示をしていくことを目的としていると言えるでしょう。
これらの会計基準や税制の改正は日本企業の国際的信用力をアップし、競争力を高める狙いがあります。今やグローバルスタンダードは一般的であり、このような改正にスピーディに対応していく必要があります。
企業会計基準委員会は、平成19年3月30日に「企業会計基準第13号 リース取引に関する会計基準」及び「企業会計基準適用指針第16号 リース取引に関する会計基準の適用指針」を公表しました。この改正を受けて、平成19年度税制改正において、新しいリース取引に係る税務上の取扱いが規定されたのです。
国際的な会計の認識においてリース取引とは、ファイナンス・リース(キャピタルリース)取引とオペレーティング・リース取引に分類され、細かい法的解釈より経済実態を反映した会計の考え方を採用しています。
今までの日本の会計基準では、所有権移転外ファイナンス・リース取引を資産計上せず、資産計上と同様の情報を注記することを前提として、賃料処理をすることを「例外処理」として容認していました。この「例外処理」は日本で非常に多く利用されていますが、「減損会計や金融商品会計との整合性がとれない」「内部統制を重視する観点からの財務情報の適正なディスクロージャー(たとえば、投資家等から財務状況が見えにくい)」等の理由により、「例外処理」を原則的な処理、つまり資産計上する処理を強制することが決められたのです。
●ファイナンス・リース取引とは
リース期間の中途においてリース契約を解除することが法的(契約上解約が不可になっているなど)または経済的(契約上は解約が可であっても解約時に相当の違約金を払わなければならないなど)にできない取引で、借手がリース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつコストを実質的に負担すること(フルペイアウト)となる取引をいいます。要するにリース資産を使用しているが、自社で所有している場合と同様の効果および費用が発生していると見なされる場合には、ファイナンス・リース取引として分類されます。
また、現在価値基準、または経済的耐用年数基準のいずれかに該当する場合にも、ファイナンス・リース取引と判定されます。
現在価値基準 |
解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件の借手の見積現金購入価額のおおむね90%以上である |
経済的耐用年数基準 |
解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数のおおむね75%以上である |
●オペレーティング・リースとは
ファイナンス・リース取引以外のリース取引のことをいい、レンタルや賃貸借の取引はこれに該当します。(図1参照)
従来は、「リース取引の分類」において、所有権移転外ファイナンス・リース取引は、売買取引に準じた会計処理を原則としながらも、一定の注記を要件として、賃貸借処理を例外的処理として容認してきました。しかし、所有権移転外ファイナンス・リースであっても、経済的実態がリース物件を売買した場合と同じであることから、今後は賃貸借処理の容認を廃止し、売買処理を義務付けることになりました。(図1ピンク色の部分)
このリース会計基準の適用は、平成20年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度からとされており、四半期財務諸表に関しては、平成21年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る四半期財務諸表から適用します。
また、適用の範囲は、金融商品取引法の適用を受ける会社(上場会社等)やその子会社及び関連会社、会社法上の会計監査人を設置する会社(期末の資本の金額が5億円以上又は負債の合計額が200億円以上の会社)及びその子会社が対象になります。
なお、「中小企業の会計に関する指針」で適用対象とされる企業や、重要性の乏しいリース取引でリース契約1件当たりの総額が300万円以下のもの、リース期間が1年以内の取引等に関しては、例外的な処理も認められています。
●資産計上
リース取引開始時に、通常の売買取引に準じた会計処理により、リース物件とこれに係る債務をリース資産およびリース債務として計上します。計上金額については原則として、リース契約締結時に合意されたリース料総額から、これに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除します。この利息相当額は、リース期間にわたり利息法により配分します。
●減価償却
リース資産に関しては、毎年減価償却を行う事になります。
注意点としては、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、所有権移転ファイナンス・リース取引のように自己所有資産と同一の方法による必要はなく、定額法、級数法、生産高比例法等の中から企業の実態に応じたものを選択適用するものとされている点です。
|
耐用年数 |
残存価額 |
償却方法 |
所有権移転 ファイナンス・リース取引 |
経済的耐用年数(経済的使用可能予測期間) |
自己資産と同様 |
自己資産と同様 |
所有権移転外 ファイナンス・リース取引 |
リース期間 |
原則 ゼロ |
定額法、級数法、生産高比例法などを選択 |
なお、所有権移転外ファイナンス・リース取引において、定率法を採用する企業が自己所有の固定資産の償却方法と近似する方法を選択したい場合には、級数法の採用の他、残存価額を10%として計算した定率法による減価償却費相当額に、簡便的に9分の10を乗じた額を各期の減価償却費相当額とする方法も認められています。
リース会計基準の変更を受け、平成19年度税制改正では、平成20年4月1日以後に契約する所有権移転外ファイナンス・リース取引については売買処理が原則となりました。
償却方法はリース期間定額法となり、賃借人が賃借料として経理した場合においてもこれを償却費として取り扱います。ただし、税務上の借手側の減価償却方法はリース期間定額法に限定されていますが、会計基準の適用指針は、定額法、級数法、生産高比例法等の中から企業の実態に応じたものを選択適用するとされていますので、会計上、例えば級数法を採用した場合には、税務上は定額法ですので、申告調整が必要となります。
消費税については、法人税法と同様に、売買取引に準じた処理となるので、借手側がリース会社に支払うリース料(利息部分を除く)が課税仕入れとして認められ、仕入控除についてリース取引開始時に一括して行うことができます。
償却資産に係る固定資産税については、改正後も貸し手側が納税する現状の取扱いが維持されることとなるため、新たに固定資産税が発生することはありません。
現段階において、中小企業(上場企業、資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の大会社以外の会社)については従来同様、所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃貸借処理によることが認められています。しかし、上記のような仕入控除の一括処理等、資産に計上するメリットもありますので、中小企業においてもリース取引の計上について検討する必要があります。
ファイナンス・リース取引に関しては、法人税法上は、会計基準を踏まえ売買取引に準じた会計処理が原則となります。ただし、借手側が賃貸借処理を行った場合であっても、賃借料相当額を償却費として取り扱うものとされます。なお、税務上の借手側の減価償却方法はリース期間定額法に限定されていますが、会計基準の適用指針は、定額法、級数法、生産高比例法等の中から企業の実態に応じたものを選択適用するものとされていますので、会計上、例えば級数法を採用した場合には、税務上は定額法ですので、申告調整が必要となります。
●リース取引の検討
ファイナンス・リース、特に所有権移転外ファイナンス・リース取引は、「設備投資時に多額の資金を必要としない」「事務処理が簡単」などの理由から日本国内では多く利用されています。
しかし、今回の改正を受けてこの取引を行う場合、貸借対照表上にリース資産・リース債務が計上されるため、自己資本比率の低下などが起こります。企業としては、導入費用の安さや事務処理の簡便さだけで安易にリースを選択することができなくなってくると思われます。設備投資等を行う際、貸借対照表に及ぼす影響や資金繰り・その他リスク等を考慮した上で購入にするのか、リースにするのかを検討していかなくてはならないでしょう。
●オペレーション体制の整備
◆資産管理
これまでは、登録されていなかったリース取引が、リース資産として資産管理をする必要性が出てきました。償却方法が必ずしも他の資産同様の処理とならないケースもあるため、注意が必要です。また、資産管理用のシステムを導入している場合、今回の改正に対応できるか否かの確認を事前に行っておく必要があります。
◆経理処理
リースの支払いはこれまで他の費用同様の処理が行えたため、期末に特別な処理を必要としてきませんでしたが、契約時の利息相当額の算出や決算時の減価償却等税務に関連する処理も増えることになります。
これら資産管理や税務処理を行うための体制が必要となり、システムの対応も必要となります。改正に則した会計システム・固定資産管理システムが必要となってきますので、事前に準備をしておくことが大事です。内部統制や税務にも連動する処理なので、関連するシステムとの連動性も視野に入れた体制の整備が必要となってきます。
また、簿外に書かれていたリース資産および債務が財務諸表に計上されることで、業務への負担は増加傾向にあります。複雑化する会計と税務ですが、煩雑になることは企業経営にとって避けたいものです。企業の資産管理の業務遂行にぜひ、固定資産・リース資産管理をスピーディに確実に遂行する定額法対応の「償却奉行21Ver.W(Superシステム以上で対応)」をお役立てください。