企業の不祥事などを受けて、ここ数年、新聞や雑誌を賑わせている言葉、「CSR」。聞いたことはあるけれど一体どのようなものを指すのかわからない、具体的にどのようなことに気をつければよいのか悩む、他社の取り組みを知りたい、と思う企業は多いのではないでしょうか?
今回はCSRに焦点を当てて詳しく解説するとともに、具体的な取り組み例や方法を紹介していきます。
CSRは「Corporate Social Responsibility」の頭文字をとっており、“企業の社会的責任”という意味になります。企業として、社会的責任を果たした事業の遂行や経営の透明性、財務状況の開示など、利害関係者(ステークホルダー)に説明責任を果たすとともに、必要な情報を積極的に公開し、良好な関係を築いていくものです。しかし、一口にCSRといっても、企業の各部門にまたがる範囲の広いものでもあります。
一般的には、(1)コンプライアンス(法令遵守)、(2)コーポレート・ガバナンス、(3)顧客・消費者、(4)従業員、(5)社会的責任、(6)環境の6項目に分けられると考えてよいでしょう。
上記をふまえてCSR活動に取り組むことは、顧客や消費者に、企業に対する安心感や信頼などのプラスイメージを与えることになります。逆に言えば、商品の欠陥や社内の不祥事などで社会的責任を果たしていない場合は、イメージや売上に影響を及ぼす、また、上場企業であれば株価が急落することもあります。米国のエンロン事件やワールドコム事件、国内では食品の安全性や自動車のリコール隠し、セクシャルハラスメント問題などを受けてCSRが急速に広まったと言えるでしょう。
1999年のダボス会議では、アナン国連事務総長(当時)が「人権・労働問題・環境」の3分野で、企業が社会的責任を果たしていくための「グローバル・コンセプト」を提唱しました。また国内でも厚生労働省や環境省、経済産業省、日本経済団体連合会などが、CSRについての報告書を発表しています。
国際標準化機構(ISO)でも社会的責任に関する国際規格を策定中であるなど、世界的にも企業の社会的責任への関心は非常に高くなっています。
ここ数年、少子化問題や企業の子育て支援について国会でも議論されています。ここでは、少子化対策に熱心に取り組む企業のケースを見てみましょう。
2006年10月に『次世代育成支援対策推進法』が施行されました。この法律は、300人未満の企業に対しては努力義務としていますが、常用雇用301人以上の企業に対しては、育児と仕事の両立の行動計画を策定することを義務づけています。
策定期間は2〜5年間で、具体的には、(1)3歳〜就学前の子どもを持つ労働者に育児休暇や労働時間の短縮を求める、(2)男性の育児休暇取得者が1人以上、(3)女性の育児休暇取得率70%などがあり、これら一定基準を満たすと「事業主認定マーク」が取得できます。
ベビー用品のコンビ(本社・東京都台東区)では、特に男性社員の育児休暇制度に注力しています。子どもの生まれた社員に「HELLO BABY HORIDAY」という子どもが6カ月になるまでに5日間連続した休暇を義務化しました。この制度の実施で、男性社員も子育ての大変さを体験できるとともに、妻も出産後の悩みやストレスを大幅に軽減できたという結果が出ています。
また資生堂(本社・東京都港区)では、男女共同参画のシンボル事業として「カンガルーム汐留」という事業所保育施設を社内に設置し、男性社員が育児に積極的に参加できるよう、出産日以降、満3歳になるまでの間に連続2週間の範囲内での短期育児制度を導入しました。
他にも、日本郵船(本社・東京都千代田区)などのように事業所内に託児施設を設けるケース、また、富士通(本社・東京都港区)などのようにベビーシッターの費用補助などを行っている企業もあります。
少子化対策と並び、企業が注力しているのが、セクシャルハラスメント及びパワーハラスメントなどの人権面のCSRです。特にセクハラは今年4月に3度目の『改正男女雇用機会均等法』が施行されたことにより、女性のみならず男性への差別も禁止となり「セクシャルハラスメントに関する事業主の措置義務」も制定されることになりました。
このほか、労働局の是正勧告に従わない場合には企業名を公表する、虚偽の報告を行った場合は20万円以下の罰金が科せられるなど、厳しいものとなっています。
2005年に中央労働災害防止局がまとめた『パワーハラスメントの実態に関する研究調査 報告書』では、9割の企業がパワーハラスメントの意味を理解していると回答したものの、約4割がパワーハラスメントやそれに類似した問題の発生を認めており、また、その8割でメンタル面の問題があったとも回答しています。
大和証券グループ本社(本社・東京都千代田区)では、社内のサテライト放送で啓発活動を行うほか、人事評価欄に「セクハラ・パワハラの有無」を設け、評価項目であることを社内に周知させています。全日本空輸(本社・東京都港区)は、就業規則を改定し、出勤停止処分の延長や懲戒処分の明確化を実施しています。
以上のように大企業では盛んに取り組まれていますが、中小企業ではどうでしょうか。なかなか手が回っていないのが現状ですが、積極的な企業もあります。
例えばオザキエンタープライズ(本社・東京都国分寺市)では、社内に人権相談室を設け、理解を深める研修を実施することで、社員が人権問題を考えるよう具体的に取り組んでいます。
「うちに限って…」と考えている経営者も多いかもしれません。しかし気付いていないだけで、現場で働く社員の精神的、肉体的疲労は意外とあるものです。
では、今後CSRに取り組もうと考えている中小企業はどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
最も重要なことは、企業としてどのようにCSRに向き合うかを、小さなことからでも具体的に考えていくことです。そのためには、会社設立の経緯や現状をきちんと把握することが先決。そして抱えている問題やそれについてのデータを社内アンケートなどで収集し、それを踏まえた上で、業務(部門)ごとに関連の深いテーマの研修を行うことがよいでしょう。
また、社内周知にはパンフレットの作成やワークショップも有効です。多くの企業が取り入れるように、地方公共団体などが行っている講習会などの座学も意識改革において効果が高いようです。
CSRに取り組むことで、社内業務も円滑になり、顧客や消費者への自社イメージ向上も望めます。取り組みが認められ、ISOなどの取得につながれば、さらなる企業のイメージアップ効果も期待できます。
CSRには、コスト的なデメリット以上に将来的なメリットがあります。それは「公益・公共・存在」の3つの責任を果たすことで、最終的には今以上の利益を生み、社会に貢献できるということです。また将来的にはより良い人材の育成、確保にもつながっていきます。
今後、国内では様々な業種でCSRへの取り組みはますます盛んになっていきそうです。特にアジアを含め、CSRの遵守がグローバルスタンダードとなることが望まれます。