頭のスパイス 心のビタミン BOOKS
子どもの頃「課題図書」という本を読んだ記憶がある方も多いことでしょう。読書感想文は夏休みの宿題の一つでした。あの頃は嫌だなと思った本も、今振り返って読むとまた違う読み方ができたりするもの。絵本や児童書の中にある純粋な感性は大人になった今こそ必要なものかもしれません。ご紹介する二冊は、児童書に通じる味わいと純粋なテーマ性があります。
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人間関係本の元祖…行動の一冊。
人を動かす

著者:D・カーネギー
出版社:創元社
 この本の原書は1936年に初版が発行された『友をつくり人を動かす法』。81年に改訂版が出版され、世界各国で1,500万部が売りつくされたという世界的ベストセラーです。
 内容は今や本屋を埋め尽くす勢いのビジネス心理、人間関係本の元祖とも言えるもの。リンカーンやルーズベルトといった大統領から判事、医師、電話交換士まで、人と関わる様々な職業の人たちのエピソードをこれでもかと並べ、ビジネスで成功するコミュニケーションの方法論へと導きます。ひとつひとつのわかりやすいエピソードを読むだけでも感動し、また、我々が人と会話するときのちょっとしたネタにもなります。
 「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」といった社会生活編に加え、この81年改訂版には「幸福な家庭をつくる七原則」の項も。やや堅苦しい感もありますが、男性だけでなく女性が読んでもためになります。「男性は家庭にこういうものを求めているのか」という目から鱗の発見もありそうです。
 著者はアメリカにおける成人教育、人間関係研究の先駆者。テキストがなかったころに社員教育を始め、本や学術書から資料をかき集め、各界の名士にインタビューし、講習会のパンフレットとして誕生したのがこの本の原型。その後、改訂を重ねて本の形になったのだとか。
 著者が存命中に来日した際、「日本で一番印象に残ったものは?」と尋ねられ「それは日本人です」と答えたのだそうです。人間の心の秘密を追求し続けた著者の考えには日本人が大事にする「思いやり」に通じるものが読み取れます。
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小説の中に具体的な生き方指南が…伝言の一冊。
君と会えたから…

著者:喜多川泰
出版社:ディスカバー・トゥエンティワン
 会社を経営し、好きだった絵で個展を開き、可愛い娘が自分の絵を見つめてくれる…人生の成功を手にした「ぼく」は、その成功へと導いてくれた一人の少女のことを思い出す。ハルカ。17歳の夏に出会った少女は、人生における「大切なこと」をすべて教えてくれて、一瞬にして消えていった…。
 純愛小説の展開の中に「どう生きるのか」という自己啓発のテーマが投げかけられる今までにない構成。「自分の欲しいものを知る」「夢を実現させる方法を知る」「魅力溢れる人になる」「手段を目的にするな」「できないという先入観を捨てる」など、人生を成功へと導くための6テーマが「ハルカ」からのメッセージとして「ぼく」に伝えられます。
 一見『世界の中心で愛をさけぶ』のような小説かと見まがいますが、読んでいくうちに違和感なく生き方指南が伝わってくるのが不思議です。すでに夢から遠ざかっている大人が読んでも、10代の頃の素直な情熱が呼び覚まされるかもしれません。それくらい、主人公の「ぼく」と「ハルカ」は読者が自己投影しやすい透明度をもっているといえるでしょう。
 著者は大学卒業後、塾を経営。高校生を中心に英語を教えながら自己啓発の研究を続けており、「一人でも多くの若者に素晴らしい人生を送ってもらうために」と執筆活動を始めたのだそう。実際に若者と日々向き合う純粋さが、作品に表われています。
 昨今の純愛小説にはあまりにも「死」が安易に登場して、ドラマ性を盛り上げることに使われますが、この小説に関しては「生」を真摯に考えるためのモチーフとして生きています。人生の後輩にもぜひすすめたい一冊です。
ベストセラー トーハン07年6月5日調べ
    ■単行本・文芸
  • 長野殺人事件[内田康夫/光文社]
  • 小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所[秋本治 原作、大沢在昌 他/集英社]
  • 赤い糸 destiny(上・下)[メイ/ゴマブックス]
  • 秘花[瀬戸内寂聴/新潮社]
  • 一瞬の風になれ(1)イチニツイテ[佐藤多佳子/講談社]
    ■単行本・ビジネス
  • 投資信託にだまされるな![竹川美奈子/ダイヤモンド社]
  • 生き方 人間として一番大切なこと[稲盛和夫/サンマーク出版]
  • できる人の勉強法[安河内哲也/中経出版]
  • カンブリア宮殿 村上 龍×経済人[村上龍 著、テレビ東京報道局 編/日本経済新聞出版社]
  • チャンスがやってくる15の習慣[レス・ギブリン 著、渋井真帆 訳/ダイヤモンド社]
●奉行EXPRESS 2007年夏号より [→目次へ戻る]