「元気!」組ビジネスリポート
■政府の「IT新改革戦略」 先進自治体に見るIT化の現在
2001年に発表された「e-Japan戦略」(2003年7月より「e-Japan戦略U」)は、世界最高水準のブロードバンドの普及率や電子商取引などのネットビジネスの普及などの成果をもたらし、電子申請など、電子政府への取り組みも着実に進みました。今年からは「IT新改革戦略」として、ITによる構造改革力のさらなる追求が目指されています。電子文書法の施行や電子申告の推進は企業内のIT活用においても深く関わりがありますが、全国の自治体においても先進的な取り組みがいくつか見られます。
少子高齢化時代に相応しいIT社会のあり方

 これからの日本を考えるとき、その最も大きな社会変化は、本格的な人口減少と高齢化にあると言われます。大量生産と大量消費によって繁栄を持続させてきた20世紀型の工業社会は徐々に変化し、いっそうグローバル化する経済のあり方も変容を迫られています。これは既存の社会基盤に対する変化の要求を伴います。
こうした認識に基づき、日本政府は社会の大変革に向けたIT基盤の整備に取り組むため、2001年、「IT基本法」の制定や「e-Japan戦略」の策定を行い、IT戦略本部(内閣府)主導のもと、「5年以内に世界最先端のIT国家になる」ことを目標に、IT革命への本格的な取り組みを開始しました。
「e-Japan戦略」の5年間で、ブロードバンドインフラの整備と利用の広がり、高機能携帯電話の普及、電子商取引の環境整備とその拡大において、世界最先端を実現しました。今や日本は、インフラ整備においても、利用する立場においても、世界最高水準となり、最先端のマーケットと技術環境を有するIT先進国家となりました。
その一方では、依然として課題も存在しています。具体的には、行政サービスや、医療、教育分野でのIT利用・活用における国民満足度の向上、地域や世代間の情報活用における格差の是正、セキュリティ対策や防災・災害対策の促進、企業経営におけるIT活用や国際競争力の強化、国際貢献などです。
今年の1月に発表された政府の「IT新改革戦略」では、社会構造を改革していくポテンシャルを秘めたITの特性を利用者の視点に立って有効に使い、国民生活や産業競争力の向上を図るとともに、日本社会の抱える課題の数々を改革していくべきとしています。そのための目標として、「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」使えるユビキタスなネットワーク社会を実現することを掲げています。
「IT新改革戦略」に示された今後の重点施策のうちに、「世界一便利で効率的な電子行政」が挙げられています。すでに電子申告や電子申請といった制度が設けられ運用が開始されていますが、これらが実用性を持つに至ったには、電子文書法(e文書法)の制定が大きく関わっています。電子文書法とは、2004年11月に制定された、保存が義務付けられた文書の電子化を認める法律です。
帳票類や財務諸表、取締役会の議事録など、商法や税法などで企業に保存が義務付けられている文書について、電子化された文書ファイルでの保存を認めています。また、紙の文書をスキャナで読み取った画像データも一定の要件を満たせば原本として認められます。
これにより、ビジネスを進める上で必要とされる文書・帳票類の印字・流通・保存にかかるコストが大幅に削減され、企業間商取引の電子化がいっそう推進されると期待されています。
NPO法人 地域情報化推進機構理事の畔上文昭氏によると、電子申告のメリットは従来の税理士の業務が軽減すること、電子申請のメリットは自治体での仕事をする業者にとって、入札時の手間が省けることだと言います。これまで業者は、自治体ごとに業者登録をする必要がありましたが、東京都では一括登録が可能になりました。今後はその他の自治体にもこういった動きが広まることが期待されます。

先進的な電子自治体によるさまざまな取り組みの数々

 全国には、こうしたIT化、すなわち電子自治体の構築、地域情報化に先進的に取り組む地域が数多く見られます。そのいくつかをご紹介しましょう。
神奈川県横須賀市は、電子入札システムをいち早く導入したことで知られています。ITを活用したBPR(業務プロセス改善)を実践する中で、業務の効率化と行政手続きの向上、入札に参加する業者の利便性を高める電子入札の必要性を強く認識し、実施するようになったと言います。現在は、平成17年から3カ年計画で取り組んでいる「べんり市役所推進計画」がトピックです。これは、ITを効果的に活用しながら、広域・官民連携などのように、行政サービスを提供する枠組みを変えることで、住民にとって便利なサービスを提供する環境を整えることが目的です。具体的には、コールセンターの設置、総合窓口化、インターネットによる市役所サービスの充実などが重点施策とされています。
東京都三鷹市は、市のホームページを住民向けと事業者向けにカテゴライズすることで、利用効率を高めています。事業者向けのページでは、入札・契約情報をまとめて掲載し、年間工事発注予定や工事入札予定及び結果、契約に関する各種基準に関する情報などが公開されています。その他、競争入札参加資格業者登録名簿、競争入札参加資格審査申請に関する情報、入札・契約に関する書式一覧など、非常に有効性の高い仕組みが構築されています。
その他、神奈川県藤沢市の「市民電子会議室」(藤沢市のホームページ上で、市政に関することから身近な生活の話題、地球環境に関わることまでさまざまな意見や情報の交換を行うネットワーク上のコミュニティ)や、熊本県八代市の地域SNS(主に災害情報のやりとり)なども注目を集めています。
これらが達成された背景には、各自治体による試行錯誤や改革のための志があることは言うまでもありませんが、地域の住民による積極的な参加意識も大きく影響していると言えます。官民揃って取り組むからこそ、先進的な電子自治体、地域情報化が達成されているのです。
再び畔上氏によると、IT化のメリットはまず、中間マージンを発生させないことでコスト低減ができることだと言います。同時に、既得権益が取り除かれ、社会そのものの変革を促すダイナミズムに繋がることで、従来の情報格差が撤廃でき、さらに、地理的・空間的制約がなくなることで、地域格差が減少し、ビジネスチャンスが全国に平等に広がるだろうとも言っています。
あなたの住んでいる地域では電子自治体の取り組み、地域情報化の進展はいかがですか。実は熱心に取り組んでいるのにあまり知られていないという状況が見られる中、企業にとっても、個人にとっても、有益な情報や効率的なシステムを見落としているかもしれません。まずは、自治体のホームページを見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。

●奉行EXPRESS 2006年夏号より
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