特集:退職金制度について考える
「07年問題」により団塊世代の退職者が増加することもあり、退職金の管理に対して注目が集まっています。その際に支払われる退職金による企業体力への影響も懸念されており、人事の管理体制の重要性が問われ始めています。また、優秀な人材確保を目的として人事評価や給与体系が見直され、それに伴い、退職金制度自体も基準給与比例制からポイント制へと変わっていく傾向にあります。そこで今回は、人事管理の視点を交え、日増しに重要度の高まる退職金管理について解説いたします。
給与体系見直し(能力主義)による退職金制度の変化

 2007年を目前に控え、直面している「07年問題」では、団塊の世代の大量退職と、景気の長期低迷による確定給付年金の運用利回りの悪化を原因とする積立資金不足による影響が大きく現れることが予想されています。
 そこで、現在、多くの企業では退職金を取り巻く給与体系を見直す動きが増加しています。その原因としては、これから団塊の世代の定年退職がピークを迎え多額の退職金の支払が予想されること、そして勤続年数の長期化により、今後さらに増加する定年退職者への支払負担が増えることが挙げられます。
 最近の雇用の流動化により中途採用が増加する中、優秀な人材確保を視野に入れ、給与体系も成果主義を考慮した計算体系に移行した企業が多く見られました。しかし、退職金制度に関しては現在でも勤続年数に比例した年功的な「基準給与比例制」をとっている企業が多いようです。
 この基準給与比例制では、退職金は一般に右下図のような算式(計算式1)で計算されます。
 この計算式を見ても分かるように、いずれも勤続年数が長いほど上昇する数値ですから、長期勤続者が優遇されるような算定方式になっています。しかし、この制度には問題点があります。
 基準給与比例制の場合、勤続年数をもとに金額が計算されるため、社員の会社への貢献度や業績が反映されにくく、有能な人材を途中採用しても、退職金の面では、長期勤続者の方が有利となることから、有能な人材確保の障壁ともなりえます。
 また、退職時の基準給与を計算の基礎としているため、実際の退職時点にならないと、正確な退職金が計算できず、正確な支払資金を予測することができないという問題もあります。
 たとえば、勤続20年頃から退職金額の上昇率が大きくなる場合に、景気の低迷や環境の変化により、定年退職者が増えるといった事態が起きると、相対的に多額の資金需要が発生する可能性もあります。(図1参照)
基準給与比例制
 上記のような問題に直面している企業としては、この環境変化に対応すべく、早期に改善策を講じる必要性が高まっていると言えます。

●基準給与比例制の問題点
@中途採用が増加する中、有能な人材を社内に確保するような退職金制度となっていない。
→能力主義から逸脱し、社員のモチベーションの低下を引き起こす可能性がある。
A給付金額が不確定であり、また環境や景気によって左右されやすい。
→会社経営と退職金の支払準備が対応せず、またコントロールもできない。

 このような背景から、現在の年功重視の「基準給与比例制」に代わり、能力や業績を重視する「ポイント制」へと移行する企業が増えており、これからの退職金計算の主流として、能力の正当評価や支給額の予期せぬ高騰防止などのメリットが注目されています。
 「ポイント制」とは退職金の額をポイントに置き換えて計算する制度で、勤続年数に対応する「勤続ポイント」と、社内の資格や職務などの会社貢献度に対応する「資格ポイント」のそれぞれを退職時まで累積していき、この累積ポイントにあらかじめ設定された1ポイントあたりの単価を乗じた額で計算します。
 また、ポイントは一般に1年間の在職実績により、○ポイントというように付与されます。
ポイント制
 先ほども軽くふれましたが、このポイント制導入のメリットには次のような点が挙げられます。

●ポイント制導入のメリット
@年功型から能力主義へのシフト
職能資格や役職の在籍期間や人事考課の成績をポイントとして考慮することにより、退職金にも会社貢献度といった能力主義を反映することができ、社員のモチベーションアップが期待できる。
また、勤続ポイントに加えて、資格ポイントを置くことで、年功型からの脱却が図れる。(図2参照)
A支給額の明確化
あらかじめ定められたポイントの累積とポイント単価をもとに計算するため、退職金の額が常に明確になり、社員もまた、退職金を容易に把握することができる。
さらに、退職金の給付水準を見直す場合にも、ポイント単価の調整で対応できるなど、計画的な資金準備が可能となる。
B基本給の切り離し
基本給のベースアップという上昇要因を切り離すことで、「基準給与比例制」に見られた支給額の予期せぬ高騰を回避できる。

 つまり、基準給与比例制からポイント制に移行することによって、今までの退職金制度の問題点に対する改善が可能になります。

ポイント制導入にあたって
 これまで見てきたように、ポイント制への移行は、従来の年功型の給与体系を成果報酬型の能力主義にシフトしていくことを可能にしますが、ポイント制を導入する場合には、いくつか注意が必要になります。
 まずは、能力ポイントを算定根拠とする賃金・人事制度体制が確立されていること。社員の成果を評価し、その算定根拠を年度ごとに数値で表すわけですから、会社への貢献度が正しく反映される理論的な数理計算が提示できなければ社員に不満が生まれ、逆にモチベーションを低下させることにも繋がりかねません。すでに月額給与体系を成果報酬型に移行している場合には、給与・人事制度体系と連動した総合的な人事考課の体制を確立することが必要となります。
 次に、ポイントを毎年累積していくための人事情報を履歴として管理すること。しかし、社員の入社時点からポイント付与に関する人事情報を定期的に履歴として管理することについては、ある程度の事務処理負担を想定しておくことが必要です。このためには、履歴管理を含めた人事管理体制の充実や、強化のためのシステム体制の構築についても考えておかなければなりません。
退職金管理オプションで能力ポイント管理
 奉行シリーズでは、退職金のポイント制導入をスムーズに実現し、移行後のポイント管理も実現できるよう、人事奉行に連動した退職金管理オプションをご用意しています。
 このオプションを使用することで、人事管理情報をもとにポイント計算による退職金支給額の算定を管理することができます。
 ポイント制導入時に必要なポイント設定を、人事奉行の管理項目である勤続年数や職能等級に対して行うことにより、月次単位でのポイント把握に加え、年度の途中でのポイント累計や退職金支給額の増加分を集計することもできます。管理項目に会社独自の評価項目を設定することもできるので、自社に最適な運用環境を作ることが可能となります。
 また、スムーズな移行を実現するための便利な機能として、移行時における従前の基準給与比例制と移行後のポイント制による変動数値を比較できるシミュレーション機能があります。これを活用することで、移行計画立案に必要な検討資料の作成が可能です。
 すでに人事奉行を活用している場合には、現在使用中の管理データを利用できるので、早期にポイント制の運用を開始できることになります。
 今後、優秀な人材を雇用し長期にわたって確保するには、勤続年数だけでなく、会社への貢献度により支給額が増える仕組みを確立することも重要な要素となります。社員のモチベーションの向上は、会社にとって企業の活性化を促進することにも繋がり、将来的にも企業にプラスの効果をもたらしてくれるでしょう。
 企業として明確な方向性と意思をもって給与・人事体制を変革していくことは、将来の企業価値創造の一環として効果的に考えることができるのではないでしょうか。
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●奉行EXPRESS 2006年秋号より
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