「元気!」組ビジネスリポート
■PHSを見事に再生したWILLCOM その革新性に迫る!
大手通信各社が撤退したPHSサービスを再生し、さらに発展させている株式会社ウィルコム。新機種発売時には長蛇の列を出現させるほど、市場にインパクトを与えています。今回は、そのウィルコム躍進の背景を通じて見えてくる「ビジネスに対する革新性」を探ります。
高品質・低コストを実現する独自の「マイクロセル方式」

 近年のウィルコムの躍進について触れる前に、その歴史について簡単に振り返ってみましょう。
 1995年7月、旧DDI(現在のKDDI)のグループ会社としてPHSサービスを開始したウィルコム(当時はDDIポケット)は、「安価なケータイ」として主に若年層を中心にマーケットを拡大し、1998年7月時点で加入者数が約362万人に達しました。しかし、その後携帯電話との競争が激化、ネットワークの整備も加入者の急激な増加に追いつかず、加入者数・売り上げともに減少傾向が続きます。
 しかしウィルコムはネットワークの整備を地道に続けながら、2001年6月、ビジネスコンシューマー・法人ユーザーに的を絞ったモバイルデータ通信サービス「エアエッジ」をスタート。日本初のモバイル通信定額制など、ビジネスシーンを中心とした独自の市場を築き、経営基盤の安定化を実現します。
 そして2004年10月、KDDIグループより資本独立を果たし、既存の携帯電話各社にはない独自のサービス(音声もデータも定額制を実現、無線部分を超小型のモジュール化に成功など)を打ち出し、現在、加入者数・売り上げともに急増中です(2006年5月には加入者400万人を突破)。
 ウィルコム製品が爆発的にヒットした理由には、独自の音声定額サービス(2005年5月スタート)、データ定額サービス(2005年11月スタート)が幅広いユーザーに受け入れられたことが第一に挙げられます。では、他社が追随できないこれらのサービスが、早期に実現できたのはなぜか? それは、ウィルコム、つまりPHSならではの技術的要素が背景にあるからです。
 PHSや携帯電話などの無線通信は、特定の周波数の決められた帯域を使用していますが、前者と後者では方式が大きく異なります。携帯電話は、全国に数万基地局を持ち、一基地局で広いエリアをカバーしています。エリア内の多数のユーザーが一基地局に集中するため、同一エリア内でのユーザーが増えると、通信速度、品質が低下する傾向にあります(マクロセル方式)。
 一方、PHS=ウィルコムでは全国16万基地局をカバーしており、多数の基地局で通信を分散することができ、ユーザーあたりの通信速度・品質を最大化することが可能です。つまり、通信が集中しても複数の基地局で分散することができ、ユーザーごとの通信の実効速度に影響が少ないのです。これを「マイクロセル方式」といい、ウィルコムが高品質なサービスを音声・データともに低コスト・定額で提供できる技術的背景となっています。
 ウィルコム独自の16万局のマイクロセルネットワークは、高速・高品質で利用しやすい定額サービスの他にも、いくつかの副産物を生み出しています。
 たとえば、基地局が多いため、災害時などにも通信が不通になったり、途切れたりすることが少なく、維持されるという信頼性であり、また、結果的に端末と基地局の距離が近いため、小電力であるということです。小電力の恩恵は、まず低電磁波であることに現れます。人体頭部に吸収される電波の平均エネルギー量を表すSAR値の低さを見てもわかりますが、医療機器などへの影響も少なく、安心・安全な無線電話機として、数々の医療現場へ導入されています。そういった点も、携帯電話との差別化に寄与しています。

無線部分のモジュール化により多種多様な端末を開発

 さらに、小電力の恩恵は、PHS無線部分の超小型モジュール化も実現させました。「WILLCOM SIM(W-SIM)」と呼ばれる無線モジュールは、その重量わずか8g。これを標準インタフェースとすることで端末開発を容易にし、ユーザーのニーズに幅広く応えることができます。
 たとえば、ビジネスの現場では音声&データ通信共用端末である「W-ZERO3」を使い、オフの日にはさらにシンプル機能で軽量な音声端末「nico.」に差し換えて使う、というように、状況に応じたフレキシブルな使用方法も可能です。
 モジュール化により電話機の選択肢が広がるだけではありません。携帯電話事業者のビジネスモデルが垂直統合型(クレジット機能、ワンセグ機能、音楽再生機能などが各社独自仕様での展開のため、パートナー企業の制限が多い)であるのに対し、ウィルコムのそれはオープン型を指向しています。つまり、パートナー企業としては端末の無線技術を「WILLCOM SIM(W-SIM)」に委ねることで、小ロットでの製品づくりが可能になり、オリジナリティを持ったサービスを創造することができます。具体例としては、バンダイが子ども向けに開発した「キッズケータイpapipo!TMなどが挙げられます。その他、法人向けソリューションのビジネス例も増えており、各業界に横断的な、各企業の得意分野と連携することで、次々に新しいビジネスチャンスを獲得していく道筋が見えているようです。
 今後ウィルコムでは、固定やモバイルを問わないWEB環境の統一・使いやすさ・低コストを実現できる環境を一体的に提供していき、将来の通信業界において独自のポジショニングを担う意向があるそうです。
 単に「低価格サービスを実施している通信機器」という枠にとどまらず、情報通信の世界に新風を起こす存在として、今後の展開に期待が膨らんでいます。
 たとえウィルコムがどんなに優れた技術を持っていても、その活用に対して、フレキシブルな視点や姿勢を持てず、従来の方法でしか対応できない状況では、苦境を打破することは難しかったでしょう。しかし、ウィルコムは決して当時の現状に留まることなく、成熟した通信業界の中でいかにして「独自性のある優れた技術」を消費者にアピールし、定着させ、拡大していくかを考えました。その結果、「“自社の強み”をよく理解した上で、他社とは違った角度からアプローチし、展開していくこと」により、業界内において確固たるウィルコムブランドを確立し、ひいては業界全体の活性化にも貢献したといえます。
 ビジネスにおける「革新」には、それまでの考え方や方法・手法に対して別の角度から見直すことが重要であり、時には「勇気を持った決断」も必要となってくるのではないでしょうか。
※PHSサービスは、携帯電話のナンバーポータビリティサービスは適用されません。電話番号は「070-****-****」となります。

●奉行EXPRESS 2006年秋号より
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